Clare Mac Cumhaill & Rachael Wiseman著「Metaphysical Animals: How Four Women Brought Philosophy Back to Life」 books.macska.org/clare-mac-cumh… ナチスドイツがヨーロッパ全土に支配を拡大しつつあった1940年代前半、哲学を学ぶために進学したオックスフォード大学で出会った四人の女子学生たちの… pic.twitter.com/Ut5MnRMPCu
posted at 05:59:23
…友情と哲学についての本。ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインの弟子としてかれの業績を本にまとめたり翻訳したことで有名な分析哲学者エリザベス・アンスコム(G.E.M.アンスコム)を筆頭に、よく知られている「トロッコ問題」を考案した徳倫理哲学者のフィリパ・フット、科学哲学と道徳哲学の…
posted at 05:59:24
…綱渡しをしたマリー・ミッジリー、そして哲学書だけでなく道徳哲学を元にした小説の著者としても成功したアイリス・マードックがその四人。「アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?」 www.amazon.co.jp/dp/4309300162 という本があるが、まさにそのタイトルが指摘するように、哲学は家事や育児など…
posted at 05:59:25
…生活に必要な家庭内労働から切り離された(それらを身近な女性に押し付けた)孤高な男性が行うものと思われがちだけれど、四人の女子学生たちはそれぞれ家庭を抱え妊娠・出産をしつつ、同じ哲学科の男子学生が戦場や役所に動員されるなどして休学するなか、かれらがいなくなった大学でのびのびと…
posted at 05:59:25
…研究し、友情を紡いだ。男がいない(少ない)学園で四人の仲良し女子、という設定だけ見るとなんだかよくあるゆるふわ日常系4コマ漫画のネタになりそうな感じだけど、実際のところ同じ男や教職を奪い合ったりしていてしばらく関係が途絶えたり殺伐とするフェイズも。ナチスドイツがフランスを…
posted at 05:59:26
…占領していよいよイギリスにも爆撃をはじめると、彼女たちも役所や産業でも仕事に動員された。また、もともとバートランド・ラッセルらの影響によりイギリス哲学界では緻密な論理を重視する風潮が強いなか、ヴィトゲンシュタインやウィーン学団の哲学者らがナチスを逃れイギリスに移住して…
posted at 05:59:27
…きたことも重なり、形而上学の地位が弱まっていたのだけれど、上の紹介で触れたとおり、四人の女性哲学者たちは道徳哲学に強い興味を示した。それはかれらが後方で経験した第二次世界大戦の2つの悲劇、ホロコーストと原爆投下という歴史的事件に衝撃を受けてのことだった。…
posted at 05:59:28
…四人のなかでも(おそらく)一番有名で、一番おもしろいエピソードが多いのは、やはりエリザベス・アンスコム。明石書店のサイトに掲載されている哲学者・児玉聡氏の「怒りに震える女、アンスコム」 webmedia.akashi.co.jp/posts/3605 …
posted at 05:59:28
…「怒りに震える女、アンスコム(続)」 webmedia.akashi.co.jp/posts/3627 というエッセイでは「奇人変人の多いオックスフォード哲学者の中でも、エリザベス・アンスコムの武勇伝は別格の観がある」とまで書かれているほどで、詳しくはこの本かそちらのページを読んで欲しいのだけれど、それらに…
posted at 05:59:29
…続く「アンスコムと堕落した哲学者たち」 webmedia.akashi.co.jp/posts/3739 で紹介されているハリー・トゥルーマン元大統領に対する名誉博士号授与への反対スピーチは彼女の(そしてフィリパ・フットらの)思想を象徴する出来事。彼女は「トゥルーマンによる原爆投下の決定が日本の降伏を早め、…
posted at 05:59:30
…多くの米兵や日本の民間人の命が失われるのを防いだ」という事実認識は受け入れたうえで、結果が良ければそれで良いという帰結主義の考え方を批判し、正しい目的のためであっても罪のない人たちの意図的な殺戮は倫理的に認められない、それを行ったトゥルーマンに対して名誉博士号を…
posted at 05:59:31
…授与するべきではない、と主張した。(帰結主義への批判については、以前わたしがフィリパ・フットと「トロッコ問題」について書いた記事 macska.org/article/280/ とその追記 macska.org/article/312/ も参照。)…
posted at 05:59:32
…とわかったようなフリして書いているけど、わたし哲学については現役じゃないんで、この本を読むのは正直けっこう難しかった。よくわからないまま読み勧めて、あとから「ああ、そういうことか」って気づいたことも何度か。こんなおもしろい人たちについての伝記なのに…
posted at 05:59:33
…哲学についてよく知っている人しか楽しめないのは残念!と思ったけれども、まあぜんぜん哲学を学んでいない人はそもそもこの本に興味持たないのかもしれない。
posted at 05:59:34
Ari Rabin-Havt著「The Fighting Soul: On the Road with Bernie Sanders」 books.macska.org/ari-rabin-havt… バーニー・サンダースの2020年の大統領選挙で陣営の副参謀を務めた著者がバーニーと過ごした2年間を振り返る本。いやもう、80歳近いのに(当時)大統領選挙の最中に自宅の雨漏りを直そうと… pic.twitter.com/wZ4VEBENYw
posted at 06:56:07
…椅子を積み上げて屋根の上に上がろうとして聞かなかったり、1954年にロサンゼルスに本拠地移転したブルックリン・ドジャーズ(サンダースはブルックリン出身)の帽子を着用してロサンゼルス・ドジャーズのキャンプを見学して球団からロサンゼルスの帽子を渡されても受け取らなかったり、…
posted at 06:56:08
…コンサルタントの言うことは聞かないし政治的に不人気な主張をメディアで堂々と言うし(受刑中の囚人も投票権があるべきだ、フィデル・カストロは良いこともした、など)、側近からも「どうしてうちのボスはこんなに部下泣かせなんだろう」と言われつつ、…
posted at 06:56:09
…「でもそんなバーニーだから力になりたい」と思われているサンダースが最強すぎてヤバい。活動家として公民権運動に参加した1960年代からバーリントン市長になった1980年代、そして連邦議員となった1990年代以降と、こんなに変わらない政治家も珍しいし、いっぽう、大統領になったわけでも…
posted at 06:56:09
…党指名を受けたわけでもないのにこんなに二大政党の1つの方向性に影響を与えた政治家もまた珍しい。ふつう、これだけ両党の主流から離れた主張を続けていると議会のなかで孤立していそうなものだけれど、実際はそうでもないらしい。かれくらい主張がはっきりしていてしかも一貫していると、…
posted at 06:56:10
…対極的な主張の政治家からもリスペクトされるんだなあというのは、わたしがワシントン州議会で議員たちと話をしてきた経験からも納得できる。このオーセンティシティは魅力的。2020年の民主党予備選では、進歩派のサンダースやウォレンに対し、中道派のバイデン、ハリス、ブーティジェッジ、…
posted at 06:56:11
…ブルームバーグ、クローブシャー、その他という二つのレーンでそれぞれ支持者を奪い合っている、という形で報道されてきたけれど、サンダース陣営が一貫して警戒していたのはバイデンだった。それは元副大統領で知名度があるというような理由ではなく、…
posted at 06:56:12
…出身階級文化的に「ビール派かワイン派か」と分けた場合に同じ「ビール派」としてサンダースと最も競合するのがバイデンだったから。予備選挙の最初の3州、アイオワ、ニューハンプシャー、ネヴァダでサンダースは勝利し15の州・地域で同時に予備選挙が行われるスーパーチューズデーでは…
posted at 06:56:13
…大票田のカリフォルニアを狙い撃ちし有利に立つ、という予定だったのが、その直前に中道派の候補たちが次々に脱落しバイデン支持を表明したことで、決着がついてしまった。このままだとサンダースが民主党指名を取ってしまう、その場合トランプが再選されてしまう、という民主党主流派の…
posted at 06:56:13
…懸念がいかに大きかったかわかる。2016年の共和党予備選挙では有力候補がゴタゴタ小競り合いを続けているうちにイロモノ扱いされていたトランプが党指名を取ってしまったことを教訓にしたのかも。本書によると、バイデンがサンダースを労働長官に指名する、という計画は…
posted at 06:56:14
…本当にあったらしい。サンダースは労働長官になったら労働者の側に立った大改革を進めるつもりで準備をしていたけれど、ジョージア州上院議員選挙の決選投票で民主党が2議席独占したことで計画が崩れる。せっかく民主党が上院を支配できることになったのに、…
posted at 06:56:15
…サンダースが上院を離れたら共和党に奪い返されてしまうので、議員を続けざるをえなかった。民主党が上院を取ってサンダース自身も上院予算委員長になったのは良かったけど、かれが労働長官になるのも見てみたかった。
posted at 06:56:15
Angela Garbes著「Essential Labor: Mothering as Social Change」 books.macska.org/angela-garbes%… シアトル在住のフィリピン系アメリカ人ライターによる「マザーリング=ケア」と社会的公正をめぐるエッセイ集。コロナにより注目された「エッセンシャル・ワーク」––社会的地位も高くないし、… pic.twitter.com/NSYsk1thxp
posted at 07:22:55
…賃金も低いか無償だったりするけれど、社会を成り立たせるために必要不可欠な労働––の最たるものとして議論されるようになったケア労働。パンデミックにより相互扶助の必要性が逼迫し、リモートワークの導入、学校や託児所などの閉鎖により家族が家に待機するようになり、看護師らが担当する…
posted at 07:22:56
…医療現場におけるケアだけでなく、家庭内でも、コミュニティでも、ケア労働の負担がこれまで以上に女性に押し寄せた。著者は、フィリピンから移民してきた両親とかれらに育てられた自分、そしてその自分が育てている子どもたちの三世代の生き方や価値観の変遷や、その背後にあるスペインや…
posted at 07:22:56
…アメリカによる植民地主義、カトリック宣教、フィリピンの国策による「ケア労働移民」輸出などだけでなく、「ケアする身体」である自身の身体性やセクシュアリティなど広い範囲を題材に、ケアの視点からみた社会的公正のあり方を展望する。…
posted at 07:22:57
…シアトルのフィリピン系コミュニティ繋がりで、2017年にThe Atlantic誌に掲載された「My Family’s Slave」 www.theatlantic.com/magazine/archi… という衝撃的な記事がある。これはフィリピン系移民の子どもとしてアメリカで育ったフィリピン系アメリカ人が、一家のための家政婦としてフィリピンから…
posted at 07:22:58
…連れてこられた女性が、実質的には自分たち一家の「奴隷」だったのではないか、と訴えかける記事で、当時わたしの周囲の、とくに反人身取引の運動をしているフィリピン系やインド系アメリカ人たちのあいだでかなり気まずい沈黙が感じられたのだけれど、この本ではその件についても少しだけ…
posted at 07:22:58
…言及されている。けど歯切れが悪いというか、自分の両親もそういう女性を連れてくるよう言われたけど「自宅に他人がいるのは耐えられない」と母親が拒否した、けれどもフィリピンの親戚の家に行くと家政婦がいるのが当たり前でどう対応していいか迷う、といった感じで、…
posted at 07:22:59
…ケア労働と社会的公正についての本であってもこの問題は(とくにフィリピン系コミュニティ以外の人が読むような場では)まだ扱いにくいんだなあと思った。
posted at 07:23:00
Craig McNamara著「Because Our Fathers Lied: A Memoir of Truth and Family, from Vietnam to Today」 books.macska.org/craig-mcnamara… ケネディ・ジョンソン両政権でヴェトナム戦争を激化させたロバート・マクナマラ国防長官の息子クレイグによる、父との関係を主題とした回顧録。… pic.twitter.com/Pgccpf64Qj
posted at 08:13:50
…タイトルは「ジャングル・ブック」で有名なイギリス人作家・詩人のラドヤード・キップリングが書いた第一次世界大戦についての詩からの引用で、父親世代による嘘によって戦争に送られ殺された息子世代の無念と、政権の中心で誰よりもその嘘をついていた実の父親ロバートとついに…
posted at 08:13:51
…打ち解けられなかった著者の無念が重ねられている。国民に嘘をついて、自分と同世代の多くの同胞たちと、それよりはるかに多いヴェトナムの老若男女の命を奪った人物が「自分の父親」である、という事実が、息子である著者をどれだけ苦しめたのか、わたしには想像できない。…
posted at 08:13:52
…けれどもこの本を読んでみると、ヴェトナム戦争については何の説明もしてくれない父親に失望していた著者が、それ以外の面ではさんざん親の権力と財力に寄りかかっていて、しかもそれを赤裸々に書いているので、正直なのか無自覚なのかちょっと判断がつかないくらい。著者はエリート寄宿学校で…
posted at 08:13:52
…落ちこぼれ同然の成績で生活態度も悪かったのに無事卒業させてもらい、さらにスタンフォード大学に進学するのだけれど、どう考えても「父親が元フォード自動車社長で、現国防長官」であることが理由としか思えない。クラスメイトの影響で反ヴェトナム戦争デモに参加するだけでなく、…
posted at 08:13:53
…いつの間にか暴動に参加して店舗のガラスを割ったりするけどお咎めもなし。休暇には登山やスキーを楽しむほど元気なのになぜか「医学的理由」により徴兵を逃れ、なにを思ったか大学をやめてメキシコからチリまでヒッチハイクの旅に出る。いやいや金持ち白人男性って自由だな!…
posted at 08:13:55
…中南米旅行に出た時期、当時すでに父ロバートは国防長官を辞めて世界銀行総裁になっていたけれど、アメリカ軍はその途中のいくつかの国の内戦に介入していて、親米的な独裁政権を守り左翼に対する政府テロを支援していたのだけれど、著者はそれも一切知らなかった。各国を巡ったあと、…
posted at 08:13:56
…小学生のころ学校の課題で発表させられたというだけの理由で憧れていたチリにたどり着くと、当時はたまたま選挙によってサルバドール・アジェンデ大統領による左派政権が誕生していた。アジェンデに招かれて首都サンティアゴで演説したキューバのフィデル・カストロに魅了され…
posted at 08:13:56
…大ファンになるけれど、そのカストロと衝突して第三次世界大戦を起こしかけた(キューバ危機)のは父ロバートだった。さらにイースター島に渡り、母親から送られてくるアメリカのタバコやその他の贅沢品を売って事業をはじめたり、既婚者の女性と将来を誓い合ったりしたあげく、その女性が事故で…
posted at 08:13:57
…大怪我をし、さらにアメリカの支援を受けたアウグスト・ピノチェト陸軍大将がクーデターを起こしアジェンダを殺害すると(クーデター後、父ロバートは世界銀行総裁として軍事政権を支援)、「やっぱチリ移住やーめた」とアメリカに帰国。自分は農業をやるんだ!と決めて(親のお金で)大学に入り…
posted at 08:13:58
…直し(親のお金で)農場を買い取る。父ロバートはヴェトナム戦争が終わってからも長年そのことについては語らず、1990年代になってようやく出した回顧録でも「間違いがあった」程度の内容で家族を戦争で失った人たちからは批判されたけれども、息子に対しても国防長官時代の話はしてくれなかった。…
posted at 08:13:58
…その一方で元フォード自動車社長という経歴からか、出資した農場経営に対してはデータを出せとうるさかったり、著者の農場で取れたクルミを周囲に配ったりと、普通に家族としての愛情はあった様子。著者は、息子である自分も父親もヴェトナム戦争という「語れない事象」に囚われ、…
posted at 08:13:59
…精神的に苦しんでいたと感じているようで、それについて語ることができれば、お互い少し楽になると思っていた様子。それはそうなのかもしれないけど、この息子の経歴を見たら「センシティヴな話はできない、信用できない」と思われても仕方がないかなあとも思う。現にこんな本出してるし。
posted at 08:14:00
サンダース本、表紙はあのデカ手袋をつけたバーニーにしてほしかった…
posted at 08:19:07
さすがに売れそうな本とは思えない… サンデルせんせーのおかげで人気のトロッコ問題についても一瞬しか触れられてないし。 twitter.com/trochilidae/st…
posted at 08:52:43
@trochilidae うん、あの紹介で興味を持たれたなら読む価値あるかもですが、あんまり一般向けの本ではないなと。
posted at 09:01:24